「信頼の世紀―微力なれども無力ではない―」(2019年1月1日)

明けましておめでとうございます。

『誰一人取り残さない(no one will be left behind)』

これは、2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」内で掲げられた「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な発展目標)」の理念の一つです。
私はこの理念に非常に賛同しています。

SDGsの17目標として提示されている内容は、次のように整理することができます。

【自然資本に関する内容】

 1、環境破壊に繋がらない
 2、生物多様性破壊に繋がらない

【人間関係資本に関する内容】

 3、人権侵害に繋がらない
 4、難民発生に繋がらない
 5、経済格差助長に繋がらない

アミタは創業以来40年間「持続可能社会」の実現を目指し、2011年3月以降は「自然資本と人間関係資本の増幅に資する事業のみを行う」ことを定款に掲げ、事業活動を行ってまいりました。

【自然資本】と【人間関係資本】という2つの資本が、DNAの二重螺旋のように互いに連鎖しながら、豊かな関係で持続していく。このような社会は、生命をコストとして扱いながら発展を遂げてきた産業革命以来の社会とは異なる、新しい価値観を基盤とした社会です。

現代の様々な社会問題の原因は、社会構造によってもたらされる「孤独」だと私は考えています。誤解を恐れずに言えば「工業社会は、孤独を増幅する障害社会である」と捉えています。

工業社会は、自然を原料費、人間を人件費として取り扱い、生命を「コスト化」することで、発展してきました。この社会では、人間もそれ以外の自然も、すべてが原料として「品質の良いもの」と「悪いもの」に選別されていきます。
大量生産・大量消費を支える金融経済が象徴するのは「信用」という、数値化できる価値の一般化です。"高品質"なものが「信用できるもの」として選ばれていく一方、基準から外れたものは"低品質"のカテゴリに含まれ、時に「障害」という名前でラベリングされます。不安定・不確実という、自然界では当然の特性を持つものたちが、工業社会では"低品質"なものとして、弱い立場に追いやられてしまうのです。

このような生命観を無視した社会では、貧困や精神的な飢餓、すなわち孤独が増幅していくのは、当然の結果と言えます。

しかし、この"低品質"として一括りにされたものたちの中にこそ、"数値化出来ない多様な価値"が潜んでいるように思います。
そして、現代社会が"数値化できること"や"脳が判断しやすいこと"を重んじ、孤独を増幅させる「信用」社会であるとすれば、心が感動すること、その感動を共感・共有できる関係性を重んじる「信頼」社会へのシフトが今、求められているのではないでしょうか。

人間とは何か?
それは、最も弱い存在で生まれ、生存確率を上げるために社会的進化を遂げた生物です。
人間の本能に潜む「一人になりたくない!」「孤独になりたくない!」というエゴ。
本当のエゴとは、私利私欲や自己顕示欲を満たすこと自体を目的とするものではなく、多数の存在と共に生きていく出発点となる、心の作用ではないでしょうか。
これから私たちが目指す『誰一人取り残さない』社会の実現には、「生存確率(物理的・身体的に生き延びることが出来る確率)」に加えて、「肯定確率(他者から生存を肯定される確率)」の向上が必要だと私は考えます。

振り返れば私たちの先祖は、豊かな森林から追い出された後、社会性を発達させて生き延びてきました。
近代社会を成立させた民主主義や資本主義もまた、中世における王や教会といった"強者"としての既得権益者の支配を覆すべく、"弱い力を結集させる"原動力として生まれてきたものです。
人類は"弱さ"ゆえに、他者と関係性を繋ぎ「社会」を創り出すことで、700万年生き延びてきました。
私たちは「微力なれども無力ではない」のです。

本年の「啐啄同時」では上記をテーマに、現代社会の課題や困難に直面しつつも、諦めず「誰一人取り残さない」持続可能な未来創造に取り組まれている方々との対談をお送りしてまいります。

リーマンショック後に誕生した、仮想通貨を支えるブロックチェーン技術の誕生から、今年で10年が経ちます。さらに遡ると、第二次世界大戦後の新秩序として敷かれた金融政策「ブレトン・ウッズ体制」から75年目です。
この金融体制の節目を感じる2019年、私たち人類は工業社会の価値観を脱皮し、新しい社会を迎えることが出来るのでしょうか。
皆さんとご一緒に「信頼の世紀」の始まりを目にすることが出来れば幸いです。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2019年1月1日
アミタホールディングス株式会社
代表取締役 熊野英介


「啐啄同時」に対するご意見・ご感想をお待ちしております。
下記フォームにて、皆様からのメッセージをお寄せください。
https://business.form-mailer.jp/fms/dddf219557820

会長メッセージ


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※2013年3月11日より、会長・熊野の思考と哲学を綴った『思考するカンパニー』(増補版)が、電子書籍で公開されています。ぜひ、ご覧ください。

※啐啄同時(そったくどうじ)とは

 鳥の卵が孵化するときに、雛が内側から殻をつつくことを「啐(そつ)」といい、これに応じて、母鳥が外から殻をつついて助けることを「啄(たく)」という。 雛と母鳥が力を合わせ、卵の殻を破り誕生となる。この共同作業を啐啄といい、転じて「機を得て両者が応じあうこと」、「逸してはならない好機」を意味する ようになった。

 このコラムの名称は、未来の子どもたちの尊厳を守るという意思を持って未来から現代に向けて私たちが「啐」をし、現代から未来に向けて志ある社会が「啄」をすることで、持続可能社会が実現される、ということを表現しています。