関係性資本主義へのトランジション・ストラテジー(移行戦略)
モノ市場、コト市場から「豊かな関係性市場」へ
世界的にSDGs・ESG経営の対応が加速し、日本においても社会的なイノベーションやパーパスドリブン経営に対する注目度が高まっています。企業は今、これまで以上に「社会にどのような価値を提供するのか?」を問われているように思います。
社会に大きな影響を与えるイノベーションの有り様とその駆動力は、時代とともに変化しています。かつての産業革命や、深刻化した公害を防止するために起きた「技術イノベーション」の駆動力は企業でした。企業により様々な技術や製品が開発され「モノ」市場が生まれます。
次なる「市場イノベーション」(ECサイトによるロングテールモデルやSNSを通じた巨大市場の出現)の時代には、情報が駆動力でした。人々は、モノそのものだけではなく、モノに付随する様々な情報・体験に価値を見出すようになり「コト」市場が一気に広がりました。
そして今、時代は"関係性"という無形性の価値でつながることで社会全体の変革を起こす「社会イノベーション」を求めています。では、その際の駆動力とはいったい何でしょうか?私は、社会イノベーションの駆動力は、人々の生活・暮らしだと考えています。
社会は私たち一人ひとりの生活によって成り立っています。豊かな関係性を求める人々によって日々の生活が変われば、暮らしの中で求められる商品も変わります。商品が変われば企業が変わり、企業が変われば産業が変わり、産業が変われば社会が変わり、社会が変われば人々の意識が変わり、意識が変わればさらに生活が変わります。
私は、この生活を基点としたスパイラルで、モノ市場・コト市場に代わる「関係性市場」を生み出し、社会の持続性を高めたいと考えています。これを実現することで、最小の負担で最大の安心を得られる新生活圏の構築を目指します。
新型コロナウイルスのパンデミックによって、大きな傷を負った世界は、その経験から"幸せのかたちは人それぞれだが、人類共通の不幸は孤独である"ということを学んだように思います。今こそ、「豊かな物質経済を支えるための社会が健全」という価値観から「豊かな自然や人間関係が増幅する社会のための経済が健全」という価値観に移行し、豊かな関係性をもたらす社会イノベーションを起こすときです。新たな時代の扉は、もう目の前です。
求められるトランジション・ストラテジー
今後も、資源枯渇や気候変動など、様々な制約条件は高まっていきます。社会課題は本来、相互に関連しており個別に対応するべきものではありません。作れば作るほど、売れば売るほど、暮らせば暮らすほど、働けば働くほどに自然資本と人間関係資本が増加する......いうなれば、関係性資本主義社会の実現が求められています。「個人が幸せになればなるほど、社会は不幸せになる時代」にピリオドを打ち「個人が幸せになればなるほど、社会も幸せになる時代」を創る必要があります。
企業経営・地域運営においても、SDGsやESGへの対応を部分的に実行する守りに重心を置いた戦略から、全体最適で新たな社会メカニズムを構築する攻めの戦略へと移行していくことが重要です。このトランジション・ストラテジー(移行戦略)は、ESG投資が盛んな世界の市場ですでに大きく動き出しており、日本でもこの3年~5年が勝負でしょう。
移行戦略の鍵は3つです。
- 変化を嫌う既得権益者や様々な立場の利害関係者を説得するコミュニケーションコスト(取引コスト)をどう抑えるか?
- 今後ますます不確実性が高まる「モノ・情報・人の気持ち」をどう確実に変えるか?
- 部分最適ではなく、全体として無駄のない循環モデルをどう設計するか?
一つ目の取引コストの削減は、個々の利害関係者の思惑や利益を超える、より上位概念となる「皆に共通するミッション・価値」を示すことがポイントになります。部分最適を求めるのではなく、全体最適のオーケストレーションが重要なのです。
二つ目の不確実の確実化には、相応の哲学・科学・技術が必要となります。アミタはまさにこの不確実の確実化をコアコンピタンスとする企業です。
三つ目の無駄のない循環モデルの設計には、自然界のエコシステム(生態系)の仕組みが大きなヒントとなります。すべての生き物や物質が互いに依存し、関係し、影響し合い、変化し続けながら、全体として安定を保ち、確実を作りあげるエコシステムのメカニズムは、経営戦略やビジネスモデルの構築に大いなる示唆を与えてくれます。
これらは決して簡単なことではありませんが、不可能でもありません。同じ目標に向かう仲間が増えれば、必ずや実現できます。
私は、価値づくりこそが事業家の使命であると感じています。
持続不可能な市場から、持続可能な関係性市場への移行が求められている今こそ、企業や自治体は「経済と環境が両立する社会」の実現のために、時代の当事者である生活者の暮らしと向き合い、社会イノベーションに本気で取り組むべきではないでしょうか。
2021年12月24日
アミタホールディングス株式会社
代表取締役 熊野英介
参考図書
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